シンプルながら、耳に残る“好きな人ができました”のキャッチコピーでお馴染みの、スタジオジブリ作品「耳をすませば」
中学生ならではの甘酸っぱい初恋と、誰もが通ってきたであろう思春期の複雑な心模様が、ギュッと詰まっていますよね。
特に、主人公・雫の言動や行動は、本当の中学生が物語を作っているのでは?と思う程リアルに描かれています。
大人になってから見ても、瞬時に“あの頃”に戻る事のできる、貴重な作品として愛されています。
そこで、筆者も大好きな『耳をすませば』の魅力を伝えるべく、あらすじをご紹介!
まだ見た事のない方は、ネタバレ注意!魅力を存分にお伝えしていきます。
耳をすませばのあらすじを簡単に!見どころも紹介
主人公・月島雫は、中学3年生。
夏休みに20冊読むという目標を持つほど、本が大好きな普通の女の子です。
何気なく眺めた図書カードに、見覚えのある名前が……
学校の図書室の本も全部読みつくすほど、冊数では誰にも負けない雫にとって、常に自分より先にその名を記している、“天沢聖司”が、一体どんな人なのかと気になり始めます。
親友・夕子と学校で会った帰り道、図書室で借りた本を忘れてきてしまった事に気付いた雫が学校へ戻ると……そこには、雫が借りたはずの本を読む一人の少年が……
嫌味っぽくからかわれてしまった雫にとって、その少年の第一印象は最悪そのもの!
嫌いだったはずなのに、図書館に向かう途中に行き着いた“地球屋”の主人との出会いによって、その少年が“天沢聖司”である事が分かってから、二人の仲は縮まっていきます。
聖司の真っ直ぐな想いに、心惹かれていく雫。
しかし、その真っ直ぐな想いは、温かさだけではなく、疎外感や、無力さをも雫に与えてしまう……
バイオリン職人を目指す聖司に、自分のやりたいことは何か、試す事を決意した雫の葛藤や成長を描いた、一口に恋愛物語とは言えない青春ストーリーなのです。
細部までこだわられた情景描写
耳をすませばの見どころと言えば、「細部までこだわられた情景描写」です!
何度も言いますが、中学3年生と言えば、反抗期真っ盛りの子も多く、訳もなくイライラしたり、一人の世界に浸りたくなったり……誰しもが心当たりがあるのではないでしょうか?
主人公・雫の言動や行動は、実に忠実に表現されており、姉・汐の小言に対して、『わかってる!』や、『今やるとこー!!』など、分かる~!とうならずにはいられない点が多く存在します。
マニアックすぎるかもしれませんが、物語冒頭で、お母さんに頼まれた牛乳を買って帰った時の『ただいま』の雫の、声のトーンの下がり具合。
『また袋もらってきたの?』と言われた時の返事の仕方など、思わずクスッと笑ってしまうほど、実に細部までこだわって、雫という人物を作り上げているのかが分かります。
母親や、姉と話す時と親友・夕子など友達と話す時の、雫の声のトーンに注目してみてください。
忠実に描かれた世界観
そして何と言っても驚くのは、耳をすませばに出てくる街並みが、とってもリアル!
生活感溢れる雫の住む団地に、憧れを持つファンの方も、多数いらっしゃるほど。
モデルとなっている、東京都多摩市聖蹟桜ヶ丘の駅前や、建物、景観など実在する場所が忠実に描かれている事です。
物語の中で、名称こそ違うものの、ひとたび聖蹟桜ヶ丘に降りたったら、ムーンを追いかける雫を探してしまうほどです。
聖蹟桜ヶ丘駅周辺や、少し足をのばした、いろは坂は、耳すま聖地”として、現在も多くのファンが訪れています。
その為、よりリアルさを感じる事ができ、登場人物の思いに強く共感できるのだと思います。
【ネタバレあり】耳をすませばのラストシーン
聖司のイタリア修行を経て、二人はどうなってしまったのか気になりますよね。
聖司は、たった2カ月さ!と言い残し、旅立っていきましたが、残された雫にとっては、きっと1年、いや、2年ほどの歳月に感じるほど長かったに違いありません。
だって両想いになったばかりですよ~?(泣)
大人になって、旦那が2カ月の出張。やった~ラッキー!とは、わけが違うのです(感じ方に個人差あり(謝))
異国の地での修行から帰ってきた聖司は、帰国を1日早めて、真っ先に雫に会いにいきます。
それも日が昇る前に。
何でも特別な場所に雫を連れていき、日の出を見せたかったのだそうな。
これだけでキュンキュン案件ですよね!
無事、秘密の場所にたどり着き、素晴らしい景色と日の出を拝む二人。
何とロマンチスト聖司、中学生ながら、告白どころかプロポーズをします。
当時、小学生だった私は、『へ?け、結婚?』と頭の中がバグりそうになりました。
対して、雫もバグるのかと思いきや、『嬉しい。そうなれたらいいなって思ってた。』と喜びます。
さ、さすが、中学生……ガキンチョの自分と一緒にしてしまって申し訳なかった……
聖司の上着を借りていた雫が、聖司にもかけようとしたその時!
『雫!大好きだ!!』と聖司が雫に抱き着いたところで、物語は終わりを迎えます。
うん。何度語っても興奮します。
まず、ひとつ言わせてください。
聖司。ロマンチストすぎないか?
雫を自転車に乗せる際に、それじゃ寒いぞ!と自身の上着を貸す所から始まり、もっと遡ると、雫の目に留まるために、雫が借りるであろう本のカードに名前書くって!
もはや発想はすでにイタリア人。
髪をなびかせてバイオリンを弾いたり、足組んで片手で、本を読んじゃうあたり、ロマンチスト以外の何物でもないし、それがまた様になってしまってるからずるいですよね!
その後の二人の恋の行方は分かりませんが、どうかそのまま恋を育んでくれていたらと願うばかりですね。
公開は未定ですが、実写版耳をすませばの、制作発表がされています。
どうやら、聖司と雫の10年後を描いたストーリーのようです。
公開されているあらすじでは、交際は続いている模様ですが、何だか暗雲がたち始めている感じ……
イタリアの地での暮らしで、更にロマンチストになっているであろう聖司の人物像が、個人的にとても気になります。
雫を清野菜々さん。聖司を松坂桃李さんが演じられます。
すでに絵になるお二人に、期待が高まりますね!
耳をすませばの監督が伝えたいことは?
耳をすませばでメガホンを握ったのは、近藤喜文監督です。
宮崎駿監督と共にジブリ作品を支えており、『火垂るの墓』や、『魔女の宅急便』など、人気作の作画監督を務めていらっしゃいます。
自身の作画スタイルについてこのように語っています。
“人間を描く時に、のびのびとした素直な感じの絵が描きたいといつも思っているんです。
主人公だけじゃなくてその他大勢の登場人物も、見ていて気持ちがいい絵を描きたいですね。”
雫や、登場人物がまるで生きているように感じるのは、近藤喜文監督の作画に対する思いが、詰まっていたからなのですね。
“この男がジブリを支えた”のだと、宮崎駿監督が言う程、才能と人間性を高く評価されていた近藤喜文監督。
柊あおいさんが描かれた『耳をすませば』に出会った宮崎駿監督は、近藤喜文監督に、監督を務めるよう勧めます。
“今は、子どもをひとつのものさしで、はかっている感じがします。
そのものさしの基準に、子どもを当てはめて、子供の価値が決まるみたいになっている。
そのものさしで、はかれない子どもは、居場所がなくなるし、生きていく希望がなくなるような状況になっている気がします。
子どもたちを、ひとつのものさしで、はかるのはやめて、すべての子どもたちに『あなたはすばらしい』と言ってあげる必要があると思います。
そういうメッセージを子どもたちに届けられる作品を作りたいですね。”
そう語っている通り、子ども思いで、非常に優しく温厚な性格であったという近藤嘉文監は、物語の登場人物たちの事も愛していたと言います。
その想いは、耳をすませばのエンドロールに隠されています。
日の出と共に、プロポーズを成功させた聖司が、雫を自転車の後ろに乗せて、帰路につく姿が確認された後、犬の散歩をする主婦や、通勤するサラリーマンなど実に細かく描かれている事が分かります。
遠目で見ても、その人の年齢、人物像など分かるようにと近藤喜文監督がこだわって作られたそうです。
そして、注目すべきは、学校を終えて下校する三つ編みの女の子が友達と別れて、誰かを待っているシーン。
そこに現れたのは、野球部に所属しているであろう一人の少年。
雫の親友・夕子と、雫への想いが儚く散ってしまった杉村です。
夕子と言えば、杉村に想いを寄せていましたよね。
ハッピーエンドを迎えた聖司と雫だけでなく、夕子と杉村にも、幸せになってほしいと願って描かれたのだそうです。
みんなそれぞれ素敵なんだと言う思いと、心温まる明るい作品を世に届けたいと願う近藤喜文監督の気持ちが、耳をすませばという作品に込められているのだそうです。
耳をすませばは、興行収入30億円に上る大ヒットを記録し、次期作も期待されていましたが、近藤喜文監督は、大動脈解離により、47歳の若さでこの世を去っています。
是非、もっと、近藤喜文監督の作る世界を拝見してみたかった……
温かく、愛情深い近藤喜文監督の想いは、ずっと後世にも引き継がれてゆくのでしょうね。
まとめ
この記事では、スタジオジブリ作品『耳をすませば』について、ご紹介いたしました。
耳すませばを何百回鑑賞したか分からない筆者ですが、見る年齢によって、感じ方や捉え方が違うのは、近藤喜文監督がこだわった、ありのままに描かれた登場人物の、リアルさ故のものなのだと感じました。
親になって子供と見るのも、新たな発見があって楽しいものです。
実写版映画の公開は未定ですが、アニメでハッピーエンドで結ばれた聖司と雫のその後に注目したいですね。
聖司の真っ直ぐなかっこよさと、雫の不器用なピュアさを是非、感じてみてくださいね。